新喜劇タイムズ

吉本新喜劇についていろいろ考えるブログです。

友好の情で結ばれた吉本新喜劇の2018年

2018年の吉本新喜劇は歴史的な融和ムードに包まれた。

 

 

 昨年(2017年)12月のなんばグランド花月リニューアルオープンを記念する公演において内場勝則座長・辻本茂雄座長が本公演において7年ぶりの共演、そして毎年恒例のお正月スペシャルに辻本茂雄座長が3年ぶりの出演という熱気に包まれる中での2018年の幕開けであった。

 

f:id:kn0718:20181231233121j:plain

吉本興業/よしもとクリエイティブ・エージェンシー

 

 

 今年はまもなく控える吉本新喜劇旗揚げ60周年に向けた動きが起こった。3月から6月にかけて吉本新喜劇小籔千豊・川畑泰史・すっちー・酒井藍の4人が揃って全国各地をまわって公演するツアーが実施されたのだ。この動きについて、近年の「4座長」を強く推す運営側による一連の動きと関連して否定的な反応を示すファンが依然として多く出てくる状況が続いた。

しかし、このツアーは決して悪い事だけをもたらしたのではない。4座長と一部のメンバーが一時的に不在になる事で、残りのメンバー同士による新たな交流を行う機会が増えた事に加え、内場勝則座長・辻本茂雄座長による本公演への注目度がより一層高まったのである。

 

そして、この人物に関しても大きな動きが二つあった。次期座長候補の一人である清水けんじである。

 

 

f:id:kn0718:20181231233404j:plain

吉本興業/よしもとクリエイティブ・エージェンシー

 

 

 一つはリーダー週の復活である。2014年を最後に行われなくなった彼のリーダー週は4月に座長の負担を軽減する形で復活した。ところがこの動きはツアー開催による一時的な措置ではない事が後に明らかになった。清水けんじによるリーダー週は一定期間の休止を挟みながら12月まで概ね途絶える事なく続いてきたのである。これは、運営側が彼を次期座長候補の一人として再び育てるという意思表示が改めて明確に示されたものとして受け止める事が出来る。ファンの方々にとって、また新たな明るい希望を抱く喜ばしい出来事となった。

 

 もう一つは辻本茂雄座長との共演である。下図は2018年の清水けんじの出演履歴をまとめたものである(リーダー週を除く)。

 

f:id:kn0718:20181231233704p:plain

 

この図を見ると彼はこの一年の間、実に11週にわたって辻本茂雄座長と共演している事が分かる。清水けんじ辻本茂雄座長の共演は特別公演を除けば、2014年11月以来一切共演する機会がなかった。ところが今年の吉本新喜劇全国ツアーの開催による残りのメンバー同士による新たな交流を行う機会の中で、二人は実に3年4ヶ月ぶりに“再会”したのである。この二人による意義深い共演は、吉本新喜劇旗揚げ60周年に向けてさらに多くの歓喜を巻き起こす事になるだろう。

 

 

 

 吉本新喜劇にとって節目の年となる2019年はもうすぐ始まる。ファンの方々はもちろん、新喜劇座員一人一人にとっても笑顔溢れる楽しい一年となる事を願ってやまない。

 

f:id:kn0718:20181231233009p:plain

 

                                平成30(2018)年12月31日

【論評】若年層アピールに余念なし、背景に少子化

吉本新喜劇が来年60周年を迎えるにあたって、新座員の募集を開始した。

 

f:id:kn0718:20181125035141j:plain

吉本興業/よしもとクリエイティブ・エージェンシー

 

 

上記の通り、名前は『吉本新喜劇座員全国オーディション』。全国からの応募をより強く意識したネーミングである。しかし吉本新喜劇では今年4月に「金の卵10個目」として新座員10人が入団したばかりである。ここまでして頻繁に募集をかけるのには何か特別な事情があるような気がしてならない。

 

 

f:id:kn0718:20181125035009j:plain

今年(2018年)4月に入団した「金の卵10個目」のメンバー達10人。

 

 

下の図は吉本新喜劇座員を男女別・年齢別に示した“人口ピラミッド”である。

f:id:kn0718:20181125035242p:plain

※2018年11月25日現在。対象は新喜劇座員のうち年齢が確認できる101人。

Ⓒ新喜劇タイムズ

 

男性座員は30代で最も多く、次いで40代、20代となっており女性も30代が最も人数が多いことが分かる。しかし新喜劇を支えている中心の世代は30代であるが、座員の知名度に至っては40代かそれ以上の世代であるのが現実である。こうした状況から退団する若手座員が出ることが珍しくない。

 

 

以前新喜劇タイムズでは退団者の続出は厳しさだけの問題なのかについて取り上げたが、それ以上の問題が今後の吉本新喜劇において発生する可能性がある。

 

 

日本では現在、急速に人口が減少し続けている。総務省統計局が発表した今年(2018)111日現在の総人口(概算値)は、12645万人で前年の同じ月に比べて27万人も減少している事が明らかになった*1。加えて15歳未満の子どもの数は1541万人、人口比率は12.2%(2018111日現在《概算値》)となっている*2。また厚生労働省が発表した昨年(2017)の人口動態統計の中で、2017年の出生数が941000(推計)である事を明らかにしている*3

 

ただこの赤ちゃんが全員無事に成人するかどうかは分からない。事故や病気あるいは自殺などによって人数にどれくらいの変化が生じるかは不透明である。いずれにせよ20年後にはこの94万人をめぐって吉本新喜劇は数多くの企業とともにメンバー獲得に向けて競争しなくてはならないという事になる。

 

しかしそれでは当然吉本新喜劇を維持出来なくなる可能性が高くなってしまう。そこで早いうちから新座員を一人でも多く募集して、より長くこの吉本新喜劇を続けられるようにするというのが今回の募集の目的であるように思う。

 

募集の対象年齢は18歳以上ではあるが40代・50代以上の人が今やっている仕事を辞めて、かなりのエネルギーを要するこの仕事にわざわざ飛び込んで参加するというのは考えにくい。また吉本新喜劇は日本における常識や笑いのスタイルをベースにしている以上外国人がこれに関心を持つ可能性は低いとみられる。となると、この募集のターゲットは日本人の20代・30代を中心とした若年層という事になる。

 

 

ベテラン勢の高齢化が進む中、若手座員の積極的な起用がなかなか進まないなど依然として課題は山積している。募集して多くの若い人たちに夢を与える事は非常に素晴らしいものではあるが、入団後の新座員の後押しを現役座員・裏方スタッフ・そして運営側が上手く連携出来るようにする事が何よりも大事なのではないだろうか。

 

 

                            平成30(2018)1125

新喜劇における新たな表現の在り方とは

 吉本新喜劇は来年(2019年)、旗揚げから60年の節目を迎えます。

 

吉本新喜劇はこれまでたくさんの座長によって、多種多様な舞台が繰り広げられてきました。

吉本新喜劇がこれからも続いていく為に、舞台における表現はこれから先どのように変わっていくべきなのでしょうか。

 

 

 

f:id:kn0718:20180830033614j:plain

吉本興業/よしもとクリエイティブ・エージェンシー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新喜劇×ダンスの”エンターテイメント型新喜劇”

 吉本新喜劇は「漫才芝居」と呼ばれるように、漫才を概ね舞台にするような形で登場人物たちがとにかく滑稽な事ばかりを繰り広げるというものでこの流れは現在に至るまで続いています。

 

 

しかし最近の新喜劇では少しずつその内容に変化が生じてきています。

今から4年前の2014年、高井俊彦さんが『踊る新喜劇』というイベントを開催しました。これは新喜劇の舞台の中で本格的なダンスを披露するという当時としては非常に画期的な内容が取り入れられました。

このイベントは2014年に合わせて3回開催され、吉本新喜劇における新たな表現の領域を切り開く事になりました。 

 

 

f:id:kn0718:20180911025422j:plain

記念すべき第1回の『踊る新喜劇』のポスター。「SHINKIGEKI SIDE STORY」と名付けられたタイトルはアメリカのミュージカル『ウエスト・サイド物語』に由来している。加えてその『ウエスト・サイド物語』の「ウエスト・サイド」は高井俊彦自身がかつて所属していたダンスユニット『WEST SIDE』の名前でもあり、一種の言葉遊びになっている。

 

 

その後、こうした形での新喜劇の舞台活動は一旦沈静化する事になります。

 

しかし翌2015年になって、新喜劇×ダンスという新たな表現を備えた舞台は別の形で再び動き出す事になります。それは、お笑いコンビ『水玉れっぷう隊』のメンバーとしても活躍するアキさんの吉本新喜劇への入団です。

 

f:id:kn0718:20180911034806j:plain

吉本興業/よしもとクリエイティブ・エージェンシー

 

「いいよぉ~」や「そういう時期でしょ」などのギャグで知られるアキさんは入団直後から辻本茂雄座長の舞台に出演しその人気を得ましたが、同時にアキさん自身が主役となってプロデュースする舞台『Joy!Joy!エンタメ新喜劇』を開催するようになりました。

 

この舞台の魅力は、何といってもキレキレなダンスの数々。アキさん自身によるものに加え、他のダンサーたちが繰り広げるパフォーマンスは圧巻です。

 

『Joy!Joy!エンタメ新喜劇』は2015年11月になんばグランド花月で初公演を行って以来なんばグランド花月で合わせて7回開催され*1、幅広い世代に愛される人気イベントへと成長しています。 

 

「新喜劇×ダンス」というこれまでになかった新しい組み合わせが多くの観客を魅了し、その心に響いたのです。

 

 

f:id:kn0718:20180911043953j:plain

チアリーダーのちあきやスパッツおじさんなどのキャラクターも登場する『Joy!Joy!エンタメ新喜劇』。新喜劇×ダンスというこれまでにない斬新な組み合わせは、多くの人々の関心を呼んでいる。

吉本興業/よしもとクリエイティブ・エージェンシー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吉本新喜劇における歌

 吉本新喜劇では「歌ネタ」と呼ばれる、歌を使ったギャグの一種が劇中で披露される事があります。しかしその時間は長くてもせいぜい数十秒程度で、数分にも及ぶ本格的なものではありません。

 

ただ2016年7月に行われた『松浦真也吉本新喜劇2026』では一部の出演者が”歌手”として登場し、劇中で本格的に歌を歌うという試みがなされています。

 

f:id:kn0718:20180912032237j:plain

吉本興業/よしもとクリエイティブ・エージェンシー

 

もし吉本新喜劇の舞台の中で本格的な歌唱シーンを入れるとした場合、一体どれくらいの長さが適当なのでしょうか。

 

 

アメリカのニュースサイト『VOX』に2015年に掲載された記事によると、ヒット・ソングの長さは概ね3~5分程度であるというデータが明らかになっています。 

 

 

 

また新喜劇タイムズが参考として、映画『サウンド・オブ・ミュージック』(1965)で使われる歌の入った楽曲が映画の上映時間のうちどれくらいの比率を占めるのか調べてみたところ、上映時間174分に対して使われた歌入りの楽曲は19曲、時間は約43分、率にして24.7%という結果が出ました。

 

吉本新喜劇の舞台は概ね45~50分程度の時間で上演されるので、先程出た比率の数値を当てはめてみると11あるいは12分ということになります。 

 

これを踏まえると吉本新喜劇の舞台の中で本格的な歌唱シーンを入れるとした場合、内容など様々な事柄を総合すると、最長で10分程度が妥当といえます。1曲の長さが3分とすると3曲が、5分とすると2曲が入る計算になります。

 

本格的な歌唱シーンを入れるとなれば、座長は内容に合う曲をどれにするか・どのタイミングで流すか・誰が歌うのかを決める作業が新たに加わってきます。さらに、もしオリジナル曲を使うとなった場合は先程挙げた作業に加えて、作詞作曲も行うという非常に難易度の高い作業をこなさなければいけません。

 

 

60年の歴史において前例のない吉本新喜劇の新たな形。果たして、これを物にする座長は現れるのでしょうか。

 

 

f:id:kn0718:20180912043120j:plain

吉本興業/よしもとクリエイティブ・エージェンシー

 

 

 

 

 

 

 

 

”違う姿”を見せること

 吉本新喜劇では過去に『エクスタシー大阪』という曲を1996年にリリースしており、当時ニューリーダーとして活躍していた内場勝則座長・辻本茂雄座長・石田靖さんのほか、スター座員による歌声を聞く事が出来ます。

 

特に内場勝則座長・辻本茂雄座長の歌唱力のレベルの高さはファンの間で広く認知されており、語り草の一つになっています。

 

 

ただ最近は、歌などの他分野での活動をする機会がほとんど無い為、こうした”これまでと違う姿”が公になる事はほとんどありません。一方で人々の趣向は変化を続けており、これまでのコテコテを前面に押し出す方法一辺倒では今後の状況によっては集客に影響が出る可能性があります。

 

そうならない為にもこれまでの方法に加えて、吉本新喜劇における新たな分野の開拓を積極的に推進し、若手座員たちの新たな魅力を引き出し、現在に至るまで長く浸透してきたイメージを変えていく必要があるのではないでしょうか。

 

吉本新喜劇がこれからも続いていく為にはどうすれば良いのか。新たな表現の模索は続きます。

 

 

f:id:kn0718:20180913025051j:plain

吉本興業/よしもとクリエイティブ・エージェンシー

*1:昨年(2017年)4月には、東京・新宿のルミネtheよしもとで初となる東京公演を行っています。

若手座員達の今後在るべき姿とは

 吉本新喜劇の舞台を通して、日々技術を磨き上げていく若手座員たち。

 

吉本新喜劇がそれぞれの劇場で毎日無事公演されているのも、この若手座員たちがいるからという側面も忘れてはいけないと思います。

 

そんな若手座員たちの姿は、今後どう在るべきなのでしょうか。

 

 

f:id:kn0718:20180830032120j:plain

吉本興業/よしもとクリエイティブ・エージェンシー

 

 

 

 

 

 

 

”スター座員休演”の衝撃

 今年4月12日(木)、吉田裕さんが前日の11日に肝膿瘍の手術を受け入院していた事がインターネットメディアなどによって明らかになりました。「吉本新喜劇全国ツアー2018」がスタートしてから4週間後のことでした。

 

手術翌日の4月12日から約1ヶ月にわたって入院した吉田裕さん。全国ツアーにも出演していたため、出演者たちの対応が注目された。

 

 

裕さんがこうした形で休演するのは今回が初めて。「吉本新喜劇全国ツアー2018」の出演者は突然の出来事に対応を迫られました。

 

その後、裕さんの休演後初めて行われた4月21日(土)の「吉本新喜劇全国ツアー2018」沖縄公演からは出演者を新たに1名追加し、裕さんの代役を同じ金の卵1個目の太田芳伸さん(写真中央の男性)が務める形で公演を継続。

復帰後初の舞台となった6月1日(金)の和歌山公演からは太田さんと共に”W乳首ドリル”を披露する流れとなりました。

 

f:id:kn0718:20180901040100j:plain

吉本興業/よしもとクリエイティブ・エージェンシー

 

 この出来事について全国ツアー終了後の6月16日(土)にMBSでオンエアされた『よしもと新喜劇』では、「吉田裕の不在をも笑いに変えてしまう吉本新喜劇のメンバー達」とのナレーションが密着取材VTRの中で流れ、その対応を賞賛しています。

 

 

しかし、今回のようなケースは他の新喜劇座員においても十分起こり得る話です。果たして今回と同じような事が再び起こった時に、事の経過は全て”美談”として処理されてしまうのか。この点については少し疑問に感じます。 

 

 

 

 

 

若手座員の仕事は?

 いざ人気者となれば膨大な数の公演に出演する事になる吉本新喜劇の若手座員ですが、そんな彼らの仕事には一体どんなものがあるのでしょうか。

仕事内容について簡単に挙げてみると次の通りになります。

 

 

 実は意外にもこれほど多くの量の仕事を若手座員たちはこなしているのです。特に近年は奈良健康ランド新喜劇やよしもと漫才劇場で公演される『極新喜劇』など若手座員が活躍する為の場が拡充されましたが、その分仕事量も増加する傾向にあります。

 

 

こうした状況の中で若手座員たちの健康面は問題にならないのでしょうか。現在吉本新喜劇座員の健康面やスケジュールを管理する為のマネージャーは少なく、マネージャー一人に対し複数の座員のスケジュール管理などを背負っているということが珍しくありません。

 

 

今回と同じような事態が起きた時に、ふさわしい代役を即座に充てるなど迅速な対応が果たして出来るのか。若手座員たちのこれからの活躍のためにも、座員たちの仕事面そして彼らを支えるバックヤード双方の面において改善を図る必要があるのではないでしょうか。

 

 

f:id:kn0718:20180904004350j:plain

吉本興業/よしもとクリエイティブ・エージェンシー

 

 

 

 

 

 

 

若手座員たちの努力の歴史

 吉本新喜劇では2005年の金の卵オーディション第1個目を皮切りに、新たな若手座員を募集する際は原則オーディションによる選考を行っています。 

 

 

 

オーディションによって選ばれたメンバーは入団して数ヶ月後、「金の卵ライブ」と呼ばれるいわばお披露目公演を行います。しかし運営側から積極的に活躍する為の場を与えられたとはいえ、注目される事がほとんど無いなどその道のりは大変険しいものでした。

 

 

そんな状況の中で転機が訪れたのは今から6年前の2012年のことでした。 

吉本興業はこの年に創業100周年を迎え、これを機に様々なプロジェクトが行われるようになりました。

 

その一環として行われるようになったのが『吉本新喜劇202◯』と呼ばれるイベントです。これはイベントが開催される年から10年後の吉本新喜劇がさらに盛り上がる事を願って、若手座員たちによる新喜劇を行うというものです。

このイベントは2012年に行われた夜公演『なんばグランド花月2022』から始まりました。

 

f:id:kn0718:20180904224610j:plain

吉本興業/よしもとクリエイティブ・エージェンシー

 

 

その後は年が変わる毎に『吉本新喜劇2023』『吉本新喜劇2024』とタイトルを変えて公演が続けられましたが、この時はまだ本公演とほぼ同じ形態で行われていました。

 

2015年には『吉本新喜劇2025』として単独イベントに昇格。翌2016年に行われた『吉本新喜劇2026』では各リーダーによる新喜劇の中で一番観客が多かったのは誰かを決めるトーナメント形式の公演を行うなど、休止期間を挟みながら今年(2018年)の『吉本新喜劇2028』に至るまで若手座員たちによる様々な公演を行っています。

 

f:id:kn0718:20180906002801j:plain

2013年に行われた『吉本新喜劇2023』。この時はまだ本公演とほぼ同じ形態で公演されていた。

吉本興業/よしもとクリエイティブ・エージェンシー

 

f:id:kn0718:20180906003826j:plain

吉本新喜劇2028』のチラシ。かつて行われた『吉本新喜劇2025』では新喜劇の終了後にミニコーナーが設けられていたが、現在はエンドトークを実施するのみとなっている。

吉本興業/よしもとクリエイティブ・エージェンシー

 

 

このようにたくさんのイベントを通して時間をかけながらスキルを磨き上げてきた新喜劇の若手座員たち。大々的に宣伝される事があまりないので、こうしたイベントの存在を知らないという方も多いと思います。

若手座員たちによる公演は今後も随時行われますので、是非興味を持っていただければと思います。 

 

 

 

 

 

 

少子化が進む中で…。

 現在、オーディションを経て入団される方のほとんどが20代あるいは30代という吉本新喜劇。急速に少子化が進む中で今後一定数の座員を確保できるのか、吉本新喜劇の存続に関わる重要な問題として議論しなければならなくなる日はそう遠くはありません。

 

日本の芸能産業は今後少子化に伴って国内市場が縮小し、その有り様も大きく変化するのではないかといわれています。

 

 

注目される事がなかなか無い若手座員たちが、吉本新喜劇の舞台を滞りなく行う上でどれほど重要な存在であるか。公演を鑑賞する中で一人でも多くの方に感じてもらいたいと思います。

 

 

f:id:kn0718:20180906010606j:plain

吉本興業/よしもとクリエイティブ・エージェンシー 

*1:奈良健康ランドは1987年(昭和62年)にオープンし、吉本新喜劇の舞台は2012年(平成24年)から行われています。

吉本新喜劇の座長の役割について考える

 吉本新喜劇には現在6人の座長がいます。しかし、座長の仕事が一体どういうものなのかを知る人はあまり多くないと思います。

 

この記事ではその座長の仕事についての紹介も含め、これからの吉本新喜劇における座長の在り方について考えてみたいと思います。

 

 

f:id:kn0718:20180825122450j:plain

 

 

 

 

 

 

 

 

”舞台を司るプロデューサー”

 吉本新喜劇の座長は舞台に主役として登場し、観客を笑顔にする事だけが仕事ではありません。

まずは下の図をご覧下さい。

 

f:id:kn0718:20180825132323p:plain

 

これは吉本新喜劇が出来るまでの大まかな流れを示したものです。

座長はまず、作家いわゆる脚本家と話し合いながら次回行われる自身の新喜劇の台本を作っていきます。この台本を作成する過程の中で演出や配役を決めていきます。続けて作家に加えて演出家・制作進行・マネージャーを交えた『制作』と呼ばれるスタッフ達と共に、作成した台本の中身を詰めていきます*1

この時、作成した台本が公演を行う劇場にある舞台装置で出来るかどうかを美術家・舞台監督・大道具が判断します。これは劇場毎にステージの大きさや照明の位置などが異なる為、セットの構図やライティングを考える中で場合によっては台本を練り直さないといけない可能性も出てくるからです。

 

また座長は台本の中身を詰めていく中で、座員のスケジュール確認も行います。

これは出演者が座長自身と同じ期間に行う他の劇場での新喜劇や地方公演と被っていないか、出演できる場合でも公演期間中に途中で他のイベントへの出席やテレビ番組への出演など何らかの理由で休演せざるを得なくなった際にその出演者の代役を立てるのかどうか、代役を立てる場合は誰を起用するのかなどについて速やかに話し合えるようにする為に、マネージャーを通して他の座員の動きを把握しておく必要があるからです。

 

こうした綿密な打ち合わせを通して、公演初日の約2週間前~10日前をめどに仮の台本が完成します。その後、座長は約1週間前に再び『制作』のスタッフと集まって公演の最終確認を行います。この最終確認を通して出来上がった台本は初日の約3日前に出演者が受け取ります*2

 

 

座長の仕事はまだまだ続きます。

座長・出演者はその受け取った台本を持って、公演初日の前夜に稽古場に集まりリハーサルを行います。

そのリハーサルでは台本の流れと台詞を把握する『本読み』・出演者の動きを付けながら本読みをする『立ち稽古』・本番と同じセットで演出を加えながら全体の流れを確認する『舞台リハーサル』を行います。驚くことにこの3つの過程を前日の夜から深夜までのわずか数時間でこなしてしまうのです。

 

座長はこの前日リハーサルの中で出演者に対して、動きや台詞についての細かい指示を適宜出していきます。稽古において出演者とのコミュニケーションを通して座員と信頼関係を築いていくのも大事なのです。

 

そして公演初日の朝に出演者全員が一つの楽屋に集まって台本や動きについての最終チェックを行い、いよいよ本番を迎えます。

 

座長・出演者は公演毎に出た反省点を見つけ出し、公演後の空き時間などを使って修正していきます。この過程を楽日(らくび)つまり最終日まで繰り返していきます*3

なお、なんばグランド花月での新喜劇は原則土曜日にテレビカメラによる収録を行います。前日すなわち金曜日にはその収録の為のリハーサルを新たに行います。

 

 

 

このように吉本新喜劇の座長は脚本・演出・衣装・配役など、いわば舞台を司るプロデューサーとしての役割を担っているのです。その仕事量は各メディアに引っ張りだこの人気俳優とそう大差ないと言っていいと思います。

 

吉本新喜劇の座長には、実力はもちろんこうした裏方の仕事を務められる器量、さらに座員との幅広い信頼関係などあらゆる要素を兼ね備えた人だけがなれるものなのです。

 

 

f:id:kn0718:20180826040106j:plain

f:id:kn0718:20180826040151j:plain

とある稽古風景。前日リハーサルは作家・演出家を交えて行う。大人数で行うものや少人数で行うものまで、公演毎に行われる稽古の様子は様々である。

 

 

f:id:kn0718:20180826040656j:plain

出演者は公演初日の朝、楽屋に集まり台本の最終チェックを行う。

 

 

f:id:kn0718:20180826040944j:plain

本番直前や公演終了後の空き時間に次の本番に向けて反省点を踏まえ修正を加えていく。もちろん座長となれば、その量は格段に多い。

 

 

 

 

ところで、吉本新喜劇を見ていると同じ座長の回に同じ出演者が必ずと言っていいほど登場しているということがあります。

その人達はいわば「座長の専属座員」であり、内場座長回に登場する安尾信乃助さん・高井俊彦さん・中田はじめさんや辻本座長回に登場するアキさんや森田展義さんなど十数名、すっちー座長回に登場する清水けんじさんや信濃岳夫さんなどがその例です。

 

こうした人達は「座組」と呼ばれ、座長が出演者をキャスティングするにあたって優先的な地位を持っているものと考えられます。ただその縛りは厳格なものであるとまではいえず、最近では各座長の専属座員が他の座長回に出演するケースもよく見られ座員同士の新たな交流が活発化しています。

また2018年現在、その専属座員の他の座長回への出演によって座長同士の間で問題が発生したという事例はなく、座長と座員の人間関係は新たな発展の段階を迎えているようです。

 

 

f:id:kn0718:20180827023039p:plain

信濃岳夫さんのリーダー週に出演する安尾信乃助さん・高井俊彦さん・中田はじめさん。3人とも元々は内場勝則座長の専属座員である。

 

f:id:kn0718:20180827023416j:plain

吉本新喜劇伊賀健二さん。現在は様々な座長回に出演しているが、かつては辻本茂雄座長の専属座員だった。今年(2018年)2月になんばグランド花月で行われた夜公演の中で辻本座長回からの”卒業宣言”を発表し、ファンの間で話題となった。 

 

 

 

 

 

 

かつての座長の位置付けは?

 ここまで現在における吉本新喜劇の座長の仕事について紹介してきましたが、かつての吉本新喜劇における座長の役割はどのようなものだったのでしょうか。 

かつての吉本新喜劇の運営体制についてウィキペディアにこのような記述があります。 

 

 

かつては大阪と京都に3つの吉本直営の演芸劇場(大阪に「なんば花月」と「うめだ花月」、京都に「京都花月」)があり、劇座員を3つの組に振り分ける3チーム体制となっていて、それぞれ10日単位(月上旬を上席、中旬を中席、下旬を下席と呼んでいた)で各チームが各劇場に出演し、ひと月で全劇場を回るローテーション制(京都→うめだ→なんばの順で移動する)を繰り返していた。現在活躍中のベテラン座員はほとんどがこの3ヶ所のいずれかで初舞台を踏んでいる。  

吉本新喜劇 - Wikipedia 

 

 

分かりやすくする為に、全体の座員の数を15人にして説明しましょう。

まずA・B・Cの3つのチームがあるとします。それぞれのチームに座長がいる訳ですから、残りは12人となりその12人をそれぞれのチームに振り分けます。そして振り分けられた3チームで3つの劇場を1ヶ月で回りきるということです。

例えばAチームが最初の10日間つまり上席にうめだ花月の舞台に出演するとします(図1)。

 

f:id:kn0718:20180827174659p:plain

3チーム制時代の新喜劇(図1)

 

するとAチームは次の10日間である中席は京都花月かなんば花月のどちらかに出演するということになります。

そしてAチームが中席に京都花月の舞台に出演したとすると(図2)、Aチームは最後の10日間である下席はなんば花月の舞台に出演するということになります(図3)。 

 

f:id:kn0718:20180827174719p:plain

3チーム制時代の新喜劇(図2)

 

f:id:kn0718:20180827174733p:plain

3チーム制時代の新喜劇(図3)

 

このようにかつての吉本新喜劇は同じメンバーが同じ座長の下で各劇場を回る、つまりそれぞれの一座同士で公演を行うという体制で当時の座長はまさにその言葉通り一座の長とも呼べる存在だったのです。

 

そのため座長と座員の関係は現在ほど柔軟なものではない、いわば師弟関係にあったためその上下関係は現在よりも厳しいものだったといわれています。

 

 

一方で座長と作家の関係はどのようなものだったのでしょうか。

序盤の方でも述べたように現在、座長は作家と話し合いながら台本を作っていきます。しかし、かつては作家が事前に作った台本を座長を含め出演者全員でそのまま公演するというものでした。つまり座長は台本制作に携わる事はなく「座員<座長<作家」という力関係ができ固定化されていたのです。 

 

 

その後、この3チーム制の運営体制は1987(昭和62)年の京都花月閉館・翌1988(昭和63)年のなんば花月閉館により崩壊し、後のやめよっカナ!?キャンペーンの実施・運営体制の再構築を通して現在の座長体制が完成する事になります。

 

 

 

 

座長の理想像はどう在るべきか

吉本新喜劇の座長は今後どう在るべきなのでしょうか。

 

 

吉本新喜劇の座長の活動は近年、多様化の様相を呈しています。

内場勝則座長においては昨年(2017年)から舞台やテレビドラマへの出演が増加し、「俳優」としてその活動の幅を広げつつあります。しかしこの状況は、同時に「吉本新喜劇座長」としてなんばグランド花月などの劇場の舞台に立つ機会が減少する事を意味する為、ファンからは「遠い存在に感じる」「少し寂しい」といった声が出ています。

 

また全国区で「タレント」として活躍する小籔千豊座長は、バラエティー番組への出演を通してその人気を得ていますが、「吉本新喜劇座長」として劇場の舞台に立つ回数が少ないことから、新喜劇ファンの非難の的にされる事も少なくありません。

 

 

f:id:kn0718:20180828015438j:plain

昨年(2017年)から舞台やテレビドラマへの出演でその活動の幅を広げている内場勝則座長。新喜劇座員にとっての新たな活動の道が開けるのは良い事なのだが…。

 

f:id:kn0718:20180828015906j:plain

東京を拠点に全国区でタレントとしての人気を集める小籔千豊(右)。「タレント」としての実力は上出来でも、「吉本新喜劇座長」としての実力はどうだろうか。

 

 

他の4座長においても例外ではありません。すっちー座長は関西ローカルのテレビ番組でレギュラーを持っていますし、藍ちゃん・川畑座長・辻本座長においてもテレビ番組にゲストとして時折出演しているケースが見受けられます。

 

以前の吉本坂46結成についての記事の中でも述べたように、吉本新喜劇座員のアイデンティティーは今後の活動環境の変化に伴って大きく揺れ動く可能性があります。 

 

 

「一途に吉本新喜劇の舞台に全力で励む」という理想像が変わろうとしている中で、吉本新喜劇の座長の姿はこれから先どうあるべきなのか。模索の動きは今も続いています。

 

 

f:id:kn0718:20180828030625j:plain

現在リーダー週を行っている4人の座員(左から清水けんじ、吉田裕、信濃岳夫、諸見里大介)。彼らは未来における吉本新喜劇の座長の在り方を変える存在となるのだろうか。

*1:但し、演出は作家が兼ねる場合が多い。

*2:お留守番日記4 - 浅香あき恵「あき恵ちゃんのチョベリグ日記」 - Yahoo!ブログ

*3:次週の月曜日が基本的な楽日。但し次の公演が小籔座長週の場合は、次週の火曜日が楽日。